「大都市における環境と社会経済システムの
再編に関する総合的研究」

市民活動団体調査報告書
---横浜市青葉区・川崎市宮前区周辺を事例として---
(2)基本理念――「バリアフリー・コミュニケーション」
 代表者が繰り返し強調したのは「バリアフリー・コミュニケーション」という言葉だった。この言葉には、障害者―健常者はもちろん、障害者―障害者、また健常者―健常者であってもこころをオープンにして人間として対等な関係を築いていきたい、という思いが込められており、全ての活動にこの基本理念が通底していることがうかがえた。

 より具体的に言うと、これは超高齢社会では、福祉の担い手が確実に減少するという将来を見据えたものであり、障害者や高齢者であっても一方的に支えられるのではなく、そうした立場であっても他者を支えられるようにならなければ生きることが難しくなるのではないか、という見解から導かれたものだという。また、このような考えに至った背景には、障害者は健常者に特別扱いされて当然という風潮があるという。「あなたたちは気の毒なのだから、ありがとうと言わなくてもいい」と教えられてきた人もいるのだそうだ。障害者は、可愛そうという見方で特別扱いすることは、果たして、障害者をひとりの人格として対等にみているのだろうか、そのこと自体が「自立」とか「社会参加」という考え方と相反するのではないかという。
 家族の高齢化が進み、家族だけでは支えきれなくなってきている現状もある。障害の有無に関らず、「できない」ところを「できる」人が手助けするのは当たり前。何かしてもらったら自然に「ありがとう」。お礼を言われるような機会を与えられたことに対して「どういたしまして、こちらこそ、ありがとう」という双方向のバリアフリー・コミュニケーションの交換をしながら、上手に「人」に頼りあって、ふつうに地域で暮らしていけばいいのではないか。介助者がひとりの障害者に拘束されてしまえば、絶対数が不足する。そこで、街の人々や店員が「一期一会のサポート」ができるようにしていく必要があるともいう。

 そこで、必要に応じて人にお願いをして何かをしてもらうための「バリアフリー・コミュニケーション」を実現させるためには、障害者側のコミュニケーション・スキルを向上させる必要があるという。障害者が人と触れ合える機会の少なさもあって、何気ない挨拶やお礼でもスムーズにできない人が少なくないそうだ。これを克服するために青葉区社協主催の「コミュニケーション・セミナー」などがあり、「ABS21」も基本的にこの考えを受け継いでいると言えるだろう。
また、代表者は「バリアフリー・コミュニケーション」を実現させるための最良のツールはインターネットだと考えているようだ。その理由は次のところで紹介したい。
(3)活動内容
 「ABS21」の中心的な活動はインターネットを利用したコミュニケーションである。パソコンを利用したものではホームページの作成(「ABS21」独自のものと青葉区社協設置のもの)、メーリングリストの運営(会員専用とオープンなもの。後者は全国各地に参加者がいる)、「インターネットサロン」の運営、このようなパソコンを利用したものに限らず、その活動内容は多岐にわたる。たとえば、お絵かき教室や粘土教室などのイベント、講演会(障害と母親の生き方を考える「マザーズジャケット」との共催。年2回)といったものが挙げられる。

要は、様々な人がふつうに交流して暮らしていけることが第一の目的なのであって、内容はこだわらないようだ。また、それらを実施する過程を記録したものを、HPで発信していく。そして、代表者がパソコン及びインターネットにこだわる理由もここにある。つまり、パソコンの操作方法やホームページの制作について教えることに関しては、知識と技術さえあれば健常者/障害者という区別は関係ない。また、そうした知識や技術を教え合うことを通じて円滑なコミュニケーションが可能になり、更にそれがコミュニケーション・スキルの向上にもつながるというのだ。また、ホームページも誰かに作ってもらうのではなく障害者自身が制作に関わることも重要で、自分自身が情報発信していくことによって自身が主役になっていることを確認し、自信を持ってほしいという。要するに、障害者と健常者という「バリア」をなくしていくための1つの手段がパソコンやインターネットなのである(*1)。

 さて、以上のような理念が最も反映されていると思われるのが「インターネットサロン」である。これは青葉区役所別館の当事者団体交流室で月2回開かれている。当事者団体交流室は建物の出入り口付近に位置しており、ドアも開けっ放しにされていて誰でも遠慮せずに立ち寄れる雰囲気が演出されていた。実際、何となく立ち寄っただけの人がそのまま参加を続けることもあるそうだ。インタビュー当日の参加者は代表者を含めて8名で、そのうち半数以上が中途障害者とのことだった。健常者が視覚障害者からパソコンの操作方法を教えてもらっているような場面もあり、確かに健常者/障害者といった区別が必ずしも必要ではないことを実感できる場になっていた。そして、これこそが「バリアフリー・コミュニケーション」の具体的な在り様なのだろう。
 また、もう1つ「ABS21」が力を入れている活動がバリアフリーマップの作成とそのためのフィールドワークだという。障害者が「レジャー・タイムを主体的にどう過ごすか」ということも課題の1つであり、車いす、要杖(T字杖)、視覚障害(白杖)の会員が、実際に街を歩いてアクセシブルなお店を選んでいく。インタビュー当時は青葉区内の各駅周辺の商店街8ヶ所を対象にフィールドワークを実施しており、既にその結果がホームページで見られるようになっていた。このような活動に対して店側の対応はどのようなものかと質問すると、外側から判断して障害者が安心して行けるところ(たとえば、急な階段がないところ、通路幅が広いところ、陳列棚が低いところ等)を選んでいるのだが、最初の頃は、料金をとられるのではないか、嫌がらせをされるのではないかというような様子が見られるところもあったという答えだった。

 しかし、フィールドワークを継続するうちに店側の態度が変化し、協力を得られるようになったこともあるそうだ。進んで改善してくれる店もでてきたとか。自分たちが「動き、ふれあう」ことによって相手の反応も変わっていき、最終的には「意識改革」がなされていく。このようなやり方でも「バリアフリー・コミュニケーション」が実現されていくのではないか、と代表者は語っていた。
 以上のように、「ABS21」の活動内容は個々を見れば多様なようであるけれども、健常者/障害者という区別を超えた「バリアフリー・コミュニケーション」の実現を目指しているという点で一貫していると言える。

 ところで、青葉区は横浜北部の「僻地」にあり、パソコン・ボランティアは桜木町(横浜市社協)、新横浜(横浜ラポール=障害者スポーツ文化センター)などの中心地で行われており、交通路線の関係で、外出が困難な障害者がそこへ通うことは不便だという。また、バリアフリーマップの作成も関内や桜木町周辺ばかりで、居住区周辺の情報はないに等しかったという。このような現状も踏まえて「ABS21」は地域重視の活動を展開しているそうだ。これについて、代表者は「共生を進める概念のグローバリゼーションと同時に地域実践活動としてのローカリゼーション」を目指していると表現した。
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