10 ユリのアルバイトが一段落した八月初めのある朝、二人はホテルを予約して海水浴に出かけた。ホテルから波打ち際までの広い砂浜は、海水浴客で賑わっていた。洋は、ビーチパラソルの影に腰を下ろして海に見入った。真夏の溢れる光は、洋の目に空と海と砂浜を見分けさせてくれる。洋の銀河は、眩しい夏の光に紛れてわからない。 洋の隣に腰を下ろしているユリの濃いピンクの水着と白い肌のコントラストは、洋の目に染みた。洋は、溢れる夏の光の下で、初めてユリの裸身を見たような気がした。その美しい裸身が、いま自分と隣り合って睦まじく海を見ていることが、洋には不思議に思われた。 「ユリちゃん、泳ごうよ」 洋はユリの手を取って、パラソルの外に立った。水泳は、洋が視力を失ってもできるほとんど唯一のスポーツだった。 水は温かく、海中で触れ合う肌の感触は、魚の肌に似て滑らかだった。 しばらく泳いで、二人はボートを借りて沖に漕ぎ出した。洋がボートを漕ぎ、船尾に腰を下ろしたユリが見張りをする。 人で賑わっている浅瀬を離れて、遊泳禁止のブイの外に出る。 さらにしばらく沖に漕ぎ出して、洋はオールを離して立ち上がった。 「危ない、洋、やめて!」 と制止するユリの言葉を振り切って、洋は海中に飛び込んだ。 洋が、身をひるがえして海上に顔を出すと同時に、ユリもまた海中に飛び込んだ。 二人は、互いに泳ぎ寄って、ボートの影で抱き合った。 洋の幸福な夏は、そのように過ぎていった。 このページの終わりです。 |
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