現在の位置:トップ > 目次 > ウッチャンの落書きストーリー第4回

第4話

この物語の主人公の名は、ウッチャン!中途失明の視覚障害者である。
現在は、世間と言う大学で、生活社会学を学ぶ学生なのだ。

第四話 ライトホームのある休日

肉まんのイラスト

11月になって寒さが身にしみ始めた頃、ライトホームのある日曜日の午後に、ウッチャンを含め何人かの入所者たちが、ホールに集まっていた。
たわいのない世間話をしていた。そんな中、だれかが、「こんな日は、肉まんとか、あんまん食べたいな。」と言った。
「イイネェ、もうそんな季節になったんだなぁ。」と、ウッチャンが応えた。
「だね、コンビニなんかは、そろそろ始めるころだよね、オデンなんかもさ。」

それを聞いてひとりが、「やってんかなぁ。」とつぶやいた。
すると「11月だもんなぁ、やってんでしょう。」とだれかがひと言。
こうなると、メンバーの気持ちは一つ。話の流れは決まってくる。
最後は、だれがコンビニまで行くかなのだ。だれが行くのかで騒いでいると、「ウルサイナァ、なに大きな声出してんの、部屋まで聞こえるよ。」 と言いながら、女の子が部屋から出て来た。
訳を説明すると 「私も食べたい。私が買って来ようか。」と言った。すると、「ほんとに、行ってくれるの?」と尋ねると、「イイヨ、そのかわり私の分は、おごってもらうからね。それとお駄賃ちょうだいね。」と返事。
これには、騒いでいたメンバーは、口をそろえて、「ガメツスギルヨォ。」と応えた。
「アッソウ、いやならいいもん。」と返事。その言葉に、あわてた一人が、「わかった、おごるからさ、お駄賃の方は、おつりがでたら、それが、お駄賃ってので、どう。」と尋ねると、「しょうがないね、それで手を打ってあげる。」と言った。

それで話がまとまり、各自、部屋へとお金を取りに行ったのである。
もどって来たメンバーは、お金を出し合い一つにまとめていた時、「ところで、はるちゃん、歩行訓練はどこまでいってんの?」 と、ウッチャンが尋ねると、「ハハハ!大丈夫だよ、コンビニまでは、一人で行ってもいいって、許可はもらってあるから。」と、女の子は応えた。
「すごいねぇ、ずいぶん早いね、まだ二ヶ月ほどしかたってないのにさ。」
「マァネ、実力が違うのよ、実力が。」と、自慢げに応えた。
「ハイハイ、あんたはすごいよ、それで、一人でコンビニに行くのは、これで何回目なの。」と、ウッチャンが聞くと、「エート、今日がはじめてかなぁ。」 
その返事に一同アゼン。
「チョットはるちゃん、コンビニまで行っていいと、いつ言われたんだ。」
「おとといかな。」 またまた一同アゼン。「オイオイ、あぶなかないか、まずいよそりゃ。」

「大丈夫だって、だいたい訓練しなくても、コンビニまでぐらいなら、まだ目が見えるから行けるもん。」 
その言葉に、ウッチャンが、「そんな事言って、どのくらい見えるんだよ。」
と聞くと、「エート、このくらいかな。」と返事。「なんだ、このくらいってのは。」と聞き直すと、「だからぁー、このくらいだってばぁ。」 と、笑いながら応えた。
この会話を、笑いながら他のメンバーは、聞いていたが、すこしむかついたウッチャンは、 「どのくらいもこのくらいも、白杖使って行くんだろうが、そう言うのは、見えるじゃなくて、少ししか見えないって事なんだよ。」と言い返すと 「そうだけどさ。」と、力無く応えた。
それに、調子にのって、「ハハハ、だろうが、おれを、からかおうなんて、はやいはやい、もうすこし修行してからだな、ハハハ。」 と言った。

だが、「フーン、私、修行が足りないから、内田さんの分買ってこれないかもしれない。」 と言い返してきたのだ。 
その言葉に、「エッ、チョット待ってよ、なんだそのう、つまりだね、キツイ言い方だったかもしんないけど、一人で行かせるのは、チト心配だし、ヤッパ自信はあってもさ。」 と、あわててなだめるように話をつづけようとしたとき、会話を聞いていた一人が、「アハハ、ウッチャンのマケー、アハハハ。」 と言った。
「あーあ、しょうがねぇなぁ。」 と今度は、ウッチャンが、力なく応えたのである。
周りにいる連中は、笑いっぱなしだし、女の子は、勝ち誇ったように、笑い出す始末。

そして、ウッチャンの不幸は、これで終わりではなかったのである。
とにかく、一人で行かせるのは心配だと、またまた話し合いとなった。
だれかが、一緒に行くってことで、決着がついたのだが、そこによけいなひと言が、入ったのである。
「後輩のめんどうは、先輩がみるもんだ。ここで、一番先輩と言えばだれでしょう?」
それを聞いて、全員が、「うちださーん、でーす。」 の大合唱。 
内田さんとか内田先輩とか連呼しはじめ、これに「なんだよ、こんな時だけ、さん付けしやがって。だいたい、弱視のつきそいに、全盲がつくってのは、おかしかないか。」と声を上げたウッチャンなのだが、その言葉に、 「いつも言っているのと、違うぞ、みんな同じ障害を、持って苦労してる仲間なんだ、見える見えないで区別するもんじゃない、お互いの不自由さを理解し合うことが、大事なんて言ってるのにさ。」と言われ、それに反応して、他の連中が、「そうだ、そうだ。」 と言い出す始末。

これには、さしものウッチャンも逆らえず、「ワカッタヨゥ、いきゃーいいんだろう、いきゃ。」と、ステゼリフを、吐くのがやっとだったのだ。
しかし、それを聞いてみんなは、「ワァーイ!やっぱり頼りになるなぁ、行ってらっしゃーい。」と歓声を上げたのです。それに対しても、「ウルセー。」と返すのがやっとのウッチャンだった。
そして、二人は、コンビニへと出かけた。
二人が、もどって来ると、「どれが、あんまんだ、肉まんだ、おれのはどれだ。」と、はしゃぎながら食べ始めた。
そんな中、だれかが、「それにしても、帰ってくるの遅かったよなぁ。」とポツリ。
すると、女の子が、「そうなの、内田さん歩くの遅いんだもん、マッテクレーなんて言ってさ。しょうがないから私が、誘導して帰って来たんだよ、一人の方が、もっと早くもどってこれたかもねぇ。」
この言葉で、ホールは、爆笑となってしまった。 
収まらない笑いに、「ウルセー、だから言ったろうが、弱視に、全盲が・・」と、つづけようとしたが、「ワハハ、だからそれは、いつも言ってるのと、違うっての、ワハハハ。」と、言われ、ふてくされながら、笑いが収まるのを待つしかなかったウッチャンでした。

「アーア、おれの面目丸つぶれだなぁ。」と、独り言をつぶやいた。
なぜかそれが聞こえてしまい、「ウッチャン、丸つぶれってさ、これで何回目かな?」と聞かれ、思わず、「サテ、何回目かなぁ。」と応えてしまった。
すると、収まりかけた笑いが、ワハハハとまた始まってしまったのである。
しばらくは、このネタで、笑いのサカナにされそうだなと、ふてくされながら、肉まんを、パクつくウッチャンでした。

第4回終わり