パソコンのイラスト  PCサポータ養成のための

パソコン入門指導講習会
 慶應大学SFC大岩研究室では、年配者を対象とした「御所見パソコン教室」を開いています。このパソコン教室は、藤沢市教育委員会主催で、藤沢市民対象に生涯学習の一環として提供しているものです。

  この度、初級パソコン教室のパソコン・サポータ養成を目的として、「御所見パソコン教室」で実施している授業内容のうち、今回は、基本的なマウス操作やウィンドウ操作を習得する授業を取り上げていただきました。
講師 慶応大学大岩研究室 佐々木氏、武田氏
日時 2005年12月10日(土)午前10時から12時まで
場所 ふれあい青葉(2階)多目的研修室

受講者定員

14名
主催 慶応大学大岩研究室、青葉バリアフリーサポート21(ABS21)

◆御所見パソコン教室の説明

   
 「御所見パソコン教室」は、年に一回 中高年27名を対象にした講座です。
2日間でアクティブにパソコンを使えるようになるために、マウスの操作と日本語入力を楽しく学びます。

1日目 午前:マウス練習のみ二時間半(クリック、ドラッグ…ソリティア含む)
午後:画面キーボードを用いたハガキ作成
2日目 午前:WEBサイト閲覧
午後:検索エンジン
※御所見(ごしょみ:神奈川県湘南地区〜藤沢市北部の地名)
 当初、藤沢で行っている初心者講習の内容をそのままやるということでしたが、今回「教える側」の立場にいる参加者が多いということで内容が変更され、講習の組み立て方、接する時に心がけていること、そして、コンセプト作りを準備の柱とすることの重要性など、講座を作る上での意識的な技術の講義が行われました。

仕切り線

◆作り方のプロセス

企画→設計→実践→評価→企画→・・・・・このループを用いて改善していく。
講習会の場合は、準備→実施→改善の連続で作り上げる。
講習会場の写真

◆コンセプトを決める

  1. 受講対象・教室環境から考えられるすべての前提条件から講座のコンセプトを決める。
    大きなコンセプト=御所見では「アクティブ」をキーワードにしている。
    常にコンセプトを意識し頭の片隅においておくことで、問題に対してはそれを共通の根拠として考えることができる。その為、コンセプト決めに時間を多く費やすことを最重要視する。
    また、このコンセプトは「後から評価できるもの」にしておくこと。(後述)
  2. 大きなコンセプトの下に講座各章に設定された小さなコンセプトがある。
    例えば内容が「検索」だとした場合、漠然と「検索ができるようになる」のではなく「検索するものを自分で設定し、自力で一時間以内に3つ以上検索できるようになる」というコンセプトを設定し、それが達成できるかで評価するというものです。
講習会場の写真

◆コンセプト決めのための「タスク分析」のやりかた

目的:教えるべき学習項目を細かく把握し、階層構造を明確にしておくことで、受講者が必要な理解の範囲を知ることができ、講座の組み立てにも役立つ。

この日に行った実践テストでは、教える側になる人、全員がソリティアをいじりながら、「ソリティアに必要なもの」を皆で書き出しました。
講習会場の写真
※ソリティアを5分程操作した後に、質問をされ、まずは自分でノートに書き出し、その後全員で意見を出し合う。
「質問:ソリティアをするためには何ができることが必要ですか?」
  クリックが必要
  トランプの移動が必要
  ポイントすることが必要・・・のためには、
             的確なカーソル移動が必要 
 ○○するためにはAが必要、Bが必要、Cが必要、
その中のBをするためにはDが必要・・・というふうに、操作と理解の階層を把握しておく。
この作業は実際にやらないと気付きにくいことも含まれるため、
実際に操作しながら書き出していくことが大事。  

◆評価と改善

講座終了後、「改善」のための「評価」を行う。
講座のコンセプトが達成されているかを確かめる。
受講者の反応やアンケートを利用。

このときに気をつけるべき点:
『アンケートの設問は、評価のための設問にする』こと。

悪い例:たのしかったですか? →はい・いいえ で終了 X
良い例:2日間の中で一番楽しかったのは何ですか?
     また、つまらなかったものは何ですか?
      →改善が必要な部分が浮き彫りになる。 ○

サポートのヒントその1 気をつけること

  • 「マウスを動かす等の肉体的な作業の横取りをしない」
  • できるだけ同じ高さの視点でお話する
  • 操作手順だけ説明しない
  • できたら誉める
  • 「判断に困ったらコンセプトで判断する」 (このためにも最初のコンセプト作りが重要)
  • 「用語の統一」
    サイト・ホームページ・Webページ →ホームページで統一
    ソフト・ソフトウェア・アプリ →ソフトで統一
    マウスポインタ・矢印・カーソル・マウス →マウスポインタで統一
  • 「コンピュータを擬人化する」=親しみ。
    コンピュータが困っています。(処理が重くなった時)
    ただいま考え中です。
    コンピュータは怒りませんよ(さわっても壊れないことをアピール)

サポートのヒントその2

  • 『目的思考教育・脱操作教育』
  • 受講者本人に自分の行動の目的を理解してもらうためのテクニック

◆理想と現実のギャップを埋めるためのステップ

  1. 何が問題かはっきりさせるための手引き言葉
    「どんな状況ですか」
    「何で困っていますか」
    「これまでの操作手順は」
  2. 本人に告げさせるための手引き言葉
    「これから何をしたいと思っていますか」
    「やりたい事は何ですか」
  3. 特に一度習ったことについては「ヒント」を出して少し待ち、
    自分で解答を見つけてもらう。=考えて理解できる。
大岩研究室
http://www.crew.sfc.keio.ac.jp/
→プロジェクト→御所見パソコン教室

講座で使っているページ
http://www.crew.sfc.keio.ac.jp/projects/2002goshomi/200402/index.html
※「サカタのタネ」等がリンク切れのしかけになっている。

 このページの面白いところは、リンクにはところどころ仕掛けが置いてあり、「わざとリンク切れを起こしている」、「開くと文字化けを起こすページ」、最初の数ページまではスクロールの必要がないページになっているがプロフィールあたりから「スクロールバーを動かさないと全部見れなく」なっていたり、ウインドウをわざと画面の端に出る様に設定しておいて、見るためには自分で移動させる必要があるとかインターネットをやる上で遭遇するものが凝縮されている。

●画面キーボードをアップ>どうぞご自由にお使いください。
http://www.sfc.keio.ac.jp/~t03455ms/gamen_keyboard.zip

解凍して、画面キーボードと書いてあるアイコンをダブルクリックすれば、すぐに使うことができます。
ファイルの中には、画面キーボードの使用説明書も入っています。


◆受講者の感想

●その1

  1. 見習いたいと思った点;過去数年間の蓄積を分厚いファイルにすべて残してあり、研究室の誰もが自由に読んで研究できるという。
  2. 生かすためには;とくに「誰がどんなものを持ってくるのか分からない状況」では、想定が難しいと思われる。しかし、基本的な部分ではコンセプト作りは可能。ある程度のコンセプトが出来ていることで「個人判断に委ねる」というところから「グループコンセプトに基づいた対応」に近づけると思う。
●その2
  • 講習は沿革・概論から入って、内容のあるレクチャーだったと思います。私はエディタでメモをとりながら聞かせていただきましたが、企画・設計・実践・評価のプロセスというのは、あらゆるタスクワークにおいて当てはまることで、町のパソコン教室といったサークル活動においても、これを基本に据えた客観的な講習ができていけば、そのサークルのさらなる発展が望めるものと思います。

    また、あの場で私が申し上げたように、トレーナーとしての能力、つまり自分でパソコンを操作する能力だけでなく、「教える能力」、さらにいえば、クライアントのコンディションをよく把握して、どのように教えていくことが最適であるかを一早く見出すことができるか。それを見出して実践していく能力を磨くことは、最も重要なことだと思います。漫然と人を集めて、その日その日で場当たり的に運営していくことには、限界があろうかと思います。
●その3
  • コンセプトを中核に据えた目的指向・思考教育の考え方とその実践には大きな感銘を受け、今後のパソボラ活動に役立てたいとの意欲表明がありました。

     コンセプト:「アクティブ」は含蓄に富むキーワードです。発想・行動の原点をこの言葉に置き外延していくとパソボラ活動の社会貢献がますます拡大していくと考えます。

●その4
  • パソコンが初めての方の講習会で、マウス操作に2時間もさいてあり、HPの時間ではウインドウをわざと、隅に出る様に設定しておいて移動させるとか、わざとHPリンクで表示出来ない様に作ってある所もあり、色々考えていらして感心でした。
    ・マウスを動かす等の肉体的な作業は横取りしない
    ・できるだけ同じ高さの視点でお話する
    ・操作手順だけ説明しない
    ・できたら誉める  etc.
    色々勉強になりました。有難うございました!

●その5
  • 配布された説明資料のアンケートにも見られることですが、Plan−Do−See(計画-実行-評価)を丁寧にやっているなと印象が残っています。これは大変重要なことです。
●その6
  • 特徴的な教え方をしている。たとえば、
    1. マウスを教えるだけで2時間もかけている。
      2日の日程のなかで、マウスの動かし方、使用方法、操作練習のゲームまで含めてクリックとはなにか、ダブルクリックとはそして、実際にゲームのソリティアを使ってなれるまで、2時間たっぷり講義するとのことです。私もなるほど、やっぱり大事なんだ、2時間かけてもいいんだ!と思ったしだいです。

      ホームページで誤りの画面を作成して、実際にみせて理由を説明して納得してもらう方法は気付きませ んでした。非常に良いです。

    2. 「専門用語の詳細な説明を日本語で行う場合に、適切な言葉を捜すのに苦労します。」
      専門用語は用語の統一を行うだけでそのまま使用している。1項のクリックも詳細に説明し   て、 実際に操作を行って慣れてもらう、覚えてもらう、という方針みたいです。使う用語は統一していると のこと

    3. 文字入力はキーボードでなく、画面の文字入力画面を使ってマウスで入力している。(もちろん、 あいうえお順の配列です)2日間の中でキーボードの代わりにマウスを徹底的に習得する点が良い。
      私のグループでもそうですが、引っ掛かるとすれば、キーボードです、キーボードで止まらないように するため、画面の文字入力を使用しているとのことです。こちらも実際に講座をやられていて工夫され たのでしょう。なるほど!気付きませんでしたが、これは賛否両論ありそうです。

    4. コンセプトを大事にしている。

    5. パソコンが怒っている。
      これは、パソコンがエラーしたり、自分の期待したものと違う画面、結果になったときに御所見パソコ ン教室で使う言葉だそうですが、私のグループでは、「パソコンは何やっても、壊れませんから!」と いいます。この方がストレートな表現で判り易くていいなーーと思った次第です。ただ、自分達のホー ムページにクリックすると「文字化け画面」「エラーの画面を表示する画面」・・等々がわざと作成し てあって経験できるように

    6. 企画、設計、実施、評価のサイクルで行っている。要するにPDCA(plan, do, check, act)で す。これはすでに私のグループでも実施していることだと思いました。特に評価で前向きな意見がたく さんでて非常にうまく行っている気がします。するどく評価する人がいて、それをまた、広い心で受け 止める人がいるからでしょう。

    7. また、私のグループと同じだと思ったことは、
      ・答えを教えない  ・一緒に考える ・何をしたいのか本人に考えてもらう 
      ・操作手順だけを説明しない     ・受講者とコミュニケーションをとる
      ・できたらメチャクチャほめる。    ・操作を代わりにしてあげない

  • 使えそうだと思ったこと;
    1. タスク分析をする。(なんとなく行っている動作も分析すると、たくさんの動作に分類でき る)
    2. 用語の統一をする
    3. パイロットテスト
    4. 作業の横取りをしない
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