現在の位置:トップ > 目次 > ウッチャンの落書きストーリー第1回

第1話

この物語の主人公の名は、ウッチャン!中途失明の視覚障害者である。
現在は、世間と言う大学で、生活社会学を学ぶ学生なのだ。

専門用語で説明すると、プータロー又は無職と言うところである。
世間に甘えて生きることをモットーとしている、とんでもない人間なのだが、 犬も歩けば・・なんとやら、 ウッチャンが、歩けば、何かが起きる、そして、何かを感じて、 怒ったり泣いたり笑ったり、時には反省したりする、いやいやしてる。
今は、まだ旅の途中。
そんな、ウッチャンの旅日記的物語。
サーテと!はじまりはじまり!

第一話 白杖が教えてくれたこと

白杖(はくじょう)のイラスト

神奈川の厚木市にあるリハビリセンターの中に、
視覚障害者のための生活訓練施設(ライトホーム)がある。
そこに、入所していた頃の話である。
ライトホームでも歩行訓練は室内歩行から始まる。
まずは、杖を使わず歩き、次に杖を使って歩く。
そして、リハビリセンターの外へ、敷地内その周辺を歩くことになる。
次に、本厚木駅を中心とした町中を歩く。
最後は交通機関を使っての訓練となる。

ウッチャンがライトホームに入所した時期に二人の入所者がいた。
入所日も同じで同期と言うところだろう。
しかし、訓練の進み具合はウッチャンが、どの訓練も三番目なのである。
だから歩行訓練も、二人が杖を使って歩いているのに、 ウッチャンは建物の中を壁づたいに、あっちへウロウロ、こっちをウロウロ。
「アレ行きすぎたかな?ここはどこ?」なんてことを繰り返していたのである。

ようやく杖を使っての訓練。
指導員から、「内田さん、これから内田さんの命を守ってくれる白杖だよ。」と、白杖を渡された。
ライトホームに来た最大の目的は、一人で歩けるようになる事。
さぁこれからだと想うはずなのに、ウッチャンの中には暗い気持ちが広がっていた。
ほとんどの入所者が、杖を使っての訓練が始まると喜んでいるのを見て、なにがそんなにうれしいのかと想っていたのである。

これがなければ歩けないのか、こんなもんが必要なのか、わかっているし望んでいたものがこの手の中にある。 
しかし、おれはこんなもんがないと歩けないのかと情けなく想っていた。
今でこそ、杖を持つことを勧め、持とうとしない人を叱るがごとく話をしている、このころのウッチャンには、白杖はこんなものでしかなかった。

杖を持とうが持たずにいようが、見えないことにかわりはない。
しかし、持つと、つらさが増してくる。
そんな気持ちの中での訓練。言葉では明るく口にしても、訓練以外では、杖を持つことは避けていたのである。

それでも、訓練は進み、町の中を歩くようになる。そんな訓練中に声をかけてくる人達がいる。 「だいじょうぶですか。」「どちらに行かれますか。」などなど色々であるが、声をかけられた当のウッチャンは、とにかくどう応えていいのかわからなかったのだ。
指導員に、声をかけられたら、どう対応して、どう応えたらいいかを教えられた。
もう、幼稚園の子供みたいであった。

それでも少しづつウッチャンの身体の中に歩くために必要なものが、身についていった。
そんな中、ウッチャンの中でも変化が起きていた。それは、声をかけてくれる人の多さである。
訓練のコースとなっている所では、お店の人や住んで居る人に、「ガンバッテネ。」と励まされるときもあった。

ウッチャンの心に、歩けるようになると言う自信と、歩ける楽しさと喜びを感じることができるようになった。こんな気持ちを与えてくれたのは、この手の中にある白杖なんだと想うようになっていたのである。
それに気づいたウッチャンは、お調子者。
覚えなくていいテクニックまで身につけてしまった。
それが、今のウッチャンである。

白杖が教えてくれたこと。
視覚障害者として生きているつらさと、人のやさしさと暖かさを信じること。この二つである。
一つを心にしまい込み、一つを信じ、それがあるから身につけた白杖の使い方が生かされ、一人で歩けているのだと想いながら、ウッチャンは今日もどこかを歩いている。

第1回終わり