ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトは700曲を超える作品を残したといわ
れていますが、ピアノ協奏曲は27曲あって、ピアノ(クラビア)演奏家であったモーツ
アルト作品の一つの中核をなしています。第19番までは軽快で優雅でチャーミング、
20番から27番までの協奏曲は軽快さと澄みきった憂愁とで織りなされた音楽美の極致
です。まさに「ミューズの子」の作品と呼ぶにふさわしい名曲揃いです。しばし皆様
とその魅力を聴き、語り合うことができれば幸いです。
生涯と作品
▽1756年1月27日
神聖ローマ帝国(現在のオーストリア)北部のザルツブルグに生まれる。父レオポル
トは大司教に仕える楽士で、作曲家、バイオリン、オルガン、ピアノの演奏家であっ
た。母はアンナ・マリア・ペルトル。二人姉弟で姉は5歳年上のナンネル。
父レオポルトはオルフガングの天才を見抜き、幼少の頃からピアノ演奏、作曲はじ
め、モーツアルトの音楽教育に心血を注いだ。
◇神聖ローマ帝国の王妃マリア・テレジアの末娘マリー・アントワネットは、モーツ
アルトの前年に生まれている。
▽1759年(3歳)この頃からピアノを見よう見真似で弾き、耳にした音楽をスラスラと
再演してみせたりした。
▽1761年(5歳) 最初の作品(アンダンテ ハ長調 K.1a)を作曲。
その後モーツアルトは父に導かれてザルツブルク大司教ジークムント・フォン・シ
ュラッテンバッハ、1772年からは後継大司教のヒエロニュムス・コロレドにつかえ、
宮廷作曲家、宮廷オルガニストを務める。当時のザルツブルグ大司教はザルツブルク
の領主でもあり、絶大な権力を有していた。ヒエロニムスは今でいえば「パワハラ社
長であり、長年にわたって若いモーツアルトを苦しめ続けたことは、残されたモーツ
アルトの手紙に明らかである。
▽1762年(6歳)1月にミュンヘンへ、9月にウィーンへ旅行したのち、10月13日、シェ
ーンブルン宮殿にて王妃マリア・テレジアの御前でピアノ(クラビア)を演奏した際、
宮殿の床に転んでしまったモーツアルトが助けてくれた7歳の皇女マリー・アントワ
ネットに「大きくなったら僕のお嫁さんにしてあげる」と言ったという逸話がある。
▽1763年、7歳のときフランクフルトでピアノを演奏した際、文豪ゲーテがたまたま
それを聴き、そのレベルは絵画でのラファエロ、文学のシェイクスピアに並ぶと思っ
たと後に回想している。
▽1763年～66年 (7～10歳) 父とともに初のパリ・ロンドン旅行。
▽1767年～69年 (11歳～13歳) 第2回ウィーン旅行。ピアノ協奏曲第1番～第4番作曲
▽1769年～71年 (13～15歳) 第1回イタリア旅行。ローマ教皇より黄金拍車勲章授章
。12月26日 オペラ『ポントの王ミトリダーテ』K.87初演。
◇1770年 マリー・アントワネット、14歳でフランス皇太子(後のルイ16世)に嫁ぐ。
▽1771年、72年(15、16歳) 二度にわたってイタリア旅行。ミラノでオペラ『ルーチ
ョ・シッラ』K.135上演。
▽1773年、74年(17、18歳)二度にわたってウィーンへ。
◇同年、マリー・アントワネットは夫が国王に即位(ルイ16世)したことでフランス王
妃の座につく。
▽1777年(21歳) ザルツブルクでの職を辞しミュンヘン、次いでマンハイムへ移る。
マンハイムでは、正確な演奏、優雅な音色、クレシェンドで有名だった マンハイム
楽派の影響を受けた。
この頃、マンハイムの音楽家フリドリン・うェーバーの娘アロイジアと結婚しようと
したが、父・レオポルトの猛反対に遭って断念。ピアノ協奏曲第9番 変ホ長調 K.271
「ジュノーム」作曲
▽1778年(22歳) 2度目のパリ旅行。モーツアルトの名声を聞いて自邸に招いて演奏
させた人々は、賞賛はしたものの相応の報酬を払わなかった。交響曲第31番ニ長調(K
297)「パリ」を作曲。7月3日、同行した母が死去。
▽1779年 (23歳) ザルツブルクに帰郷。ザルツブルク宮廷にオルガニストとして復
帰。
▽1780年 (24歳) オペラ『イドメネオ』K.366準備のためにミュンヘンへ。マリア・
テレジア崩御。
▽1781年(25歳) ザルツブルグ大司教ヒエロニムス・コロレドと衝突を繰り返して解
雇され、父親の制止を振り切ってウイーンへ。以降、フリーの音楽家として演奏会、
作曲、ピアノのレッスンなどで生計を立てた。
▽1782年(26歳) アロイジアの妹コンスタンツェ・ウエーバーと結婚。オペラ『後宮か
らの誘拐』K.384をウィーンで初演。
▽1784年 フリーメーソンに加入。
ピアノ協奏曲第11番 ヘ長調 K.413、第12番 イ長調 K.414、第13番 ハ長調 K.415作
曲
▽1784年(28歳) ピアノ協奏曲第14番 変ホ長調 K.449、第15番 変ロ長調 K.450、第16
番 ニ長調 K.451、第17番 ト長調 K.453、第18番 変ロ長調 K.456、第19番 ヘ長調 K
459第二戴冠式を作曲。
▽1785年(29歳) ピアノ協奏曲第20番 ニ短調 K.466、第21番 ハ長調 K.467、第22番
変ホ長調 K.482を作曲。
▽1786年(30歳) オペラ『フィガロの結婚』作曲。ドン・ジョバンニとともにロレンツ
ォ・デ・ダフォンテの台本。翌年プラハでヒット。父レオポルト死去。
ピアノ協奏曲第23番 イ長調 K.488、第24番 ハ短調 K.491、第25番 ハ長調 K.503を
作曲。
▽1787年(31歳) オペラ 『ドン・ジョバンニ』作曲。プラハ、エステート劇場で初演
。
▽1788年(32歳) 交響曲第39番 変ホ長調 K.543、交響曲第40番 ト短調 K.550、交響曲
第41番 ハ長調 K.551『ジュピター』を6週間で作曲。ピアノ協奏曲第26番 ニ長調 K.
537「戴冠式」作曲。この前後からモーツアルトは経済的に困窮し、知人に何通もの
借金の申し入れをしている。この困窮はよく言われるモーツアルトの浪費癖もさるこ
とながら、妻コンスタンツェの病気と温泉での療養に多額の金を必要としたこともそ
の大きな原因といわれる。
◇1789年 フランス革命始まる。
▽1790年(34歳) オペラ『コシファントッテ』を初演。2月には皇帝ヨーゼフ2世が逝去
し、マリー・アントワネットの兄レオポルト2世が即位。
1791年 1月、最後のピアノ協奏曲となる第27番 変ロ長調 K.595を作曲。これを初演
した3月4日のコンサートが演奏家としてのモーツァルト最後のステージとなった。ク
ラリネット協奏曲 イ長調 K.622作曲。9月30日、ジングシュピール(ドイツ語で歌う
オペラ) 『魔笛』 K.620を作曲・初演。
まさに命の限り作品を書き続けていたが、11月から体調が悪化し、レクイエム K.6
26作曲中の11月20日から病床に伏し、12月5日0時55分にウィーンで死去。
◇1793年 マリー・アントワネット、現在のコンコルド広場にて刑死(38歳)。
《参考文献》
吉田秀和 「モーツアルトの手紙」
小塩 節 「モーツアルトへの旅」
海老沢 敏 「モーツアルトを聴く」
井上 太郎 「モーツアルトのいる部屋」
その他
シュテファン・ツヴァイク 「マリー・アントワネット」上・下
遠藤周作 「王妃 マリー・アントワネット」1～3
その他