オセアニアクルーズ日記〔後書き〕

　１月８日から３月４日まで、５５日間に及ぶクルーズ中の生活は、　１３日にわた る各寄港地での観光はもとより、洋上にあった３２日間、船内では数多くのイベント 、講演会、各寄港地に関する事前のレクチャー、各国の実情・問題に合わせた講演、 反戦平和運動、環境問題に関するシンポジウム、あるいは民族舞踊と歌・器楽演奏、 乗客の演芸会、運動会まであって、まさに百花繚乱と表現したくなるような日々でし た。
　この他にはない賑わいを求めてか、北海道から沖縄まで全国から参加しているピー スボートのクルーズにはリピーターが多く、今回のオセアニアクルーズに参加した人 のうち、実に80％、８００人がリピーターというのには驚きました。実際、会う人の 多くが「私は何度目です」と話している。中には１０回を超える方もいて、その人気 の高さには驚きました。参加者の皆さんは、ピースボートのアイデンティティである 反戦平和、反原発、環境保護といった主張に共感して参加した方ばかりではなく、そ うした催しには関心を示さず、旅を楽しんでいる方もたくさんおられました。中には ガダルカナルやラバウルに慰霊・墓参のために訪れた人も少なからずおられたようで す。
　確かに、一度参加したら是非もう一度と願わずにはいられないほど魅力に満ちたク ルーズでした。最近、市民の個立化が進んでいると言われますが、千人もの人が狭い 船内で２か月間も生活していれば、言葉を交わし、日々親しさを増して互いに普段は 口にしないプライベートな話もし、酒を汲み交わし、卓球、テニス、歌、楽器演奏、 ヨガ、ダンス、手芸、書道、囲碁、将棋、マージャン等、参加者それぞれが日頃関心 を抱いている事に手を染め、共に時間を過ごすことで互いに親しみを増していくこと は自然な成り行きだと思います。恋も生まれたでしょう。 聞くところでは、こうして帰国した後のクルーズ参加者同士の交流もよく行われてい るようです。私も得がたい友を何人も得て、９月には、船内で５回にわたって開催し た『モーツアルト、ピアノ協奏曲の魅力』で親しくなったＷさんとＳさんが暮らす山 形県を訪ねて、３泊４日の旅をしてきました。
　障害をもった方とも知り合いになれました。私と同じ白杖を持った視覚障害の男 性、聾唖のご夫婦、お母さんとともに参加していた車椅子を利用している脳性マヒの 若い女性、ご主人とともに参加していた若年性認知症の女性、それらの人々が、それ ぞれの仕方でクルーズを楽しんでいました。
　広島の原爆被爆者の三宅信男さん、福島原発事故後の皮災者の生活ドキュメンタリ ー映画を製作し、著書を出している豊田直巳さん、第五福竜丸事件や原爆で半壊した 浦上天守堂の存続にまつわるドキュメンタリー等を出版している高瀬毅さん、反原発 ・環境保護を唱えるオーストラリア緑の党のマイク・スコットさん、軍事評論家の相 田哲男さんといった方々の講演はじめ、さまざまな催しを通じて、私自身これまで長 年にわたって唱えてきた、反戦平和、反原発、環境保護、基本的人権の尊重といった 思いをさらに強くした旅でした。
　最後に、船内や各寄港地でお世話になった皆さん、私を支えてくれたＯさんと妻に 感謝の意を表して長い日記の後書きを締めさせていただきます。改めて長期にわたる 投稿をお読みくださった皆様に感謝申し上げます。
　　　　　　　2018年11月15日　鶴巻　繁