幸せのスイッチ
−幸せと平和−
2014年6月20日(金)

文責: 鶴巻 繁

 ヒュー、ヒュルル。ヒュー、ヒュルリ!
 春から夏にかけて聞こえるウグイスのさえずりを聞くと、私は幸せを感じる。若い ソプラノ歌手の歌声のように美しく輝やかしい声に、私の心は明るくはずむ。ウグイ スの歌声は、私にとって幸せのスイッチなのだ。
 人は何に幸せを感じるか。
 それは、「目的を達成したとき」と「ある場に身を置き、あるものに触れたとき」 に分けられないだろうか。人が目的を果たしたとき、何事かを成し遂げたときの幸福 感は、ほかの何ものにも換え難いものだが、これは個々人の目的達成に向けての努力 に負うところが大きい。

 一方、「ある場に身を置き、あるものに触れたとき」に感じる幸せは、たとえば私 のようにウグイスの歌声を耳にしたとき、美しい風景、美しい花を目にしたとき、あ るいはおいしいものを食べたとき、心の琴線にふれる一冊の本を読み終え、音楽や映 画に接したとき等々、より身近にあるものに触れたとき感じるもので、誰もが感じる ことのできる、つかの間ではあるがささやかで確かな幸せではないか。人々は、この ささやかで確かな幸せを求めて旅をし、レストランに足を運び、本を読み、コンサー トホールに、映画館や劇場に通うのではなかろうか。

 この、幸せのスイッチにとって不可欠なものがある。それは何だろう。お金か、健 康か、家族や友人たちか、それらのものはあったほうがよいだろう。しかしそれらは 不可欠なものではない。お金も健康も家族や友人も、あったほうがよりベターではあ るが、なければ幸せを感じられないというものではない。
 それでは、幸せを感じるに不可欠なものとは何か。それは世の平和だ。あらゆる幸 せの基本にあるのが平和なのだ。平和なくして幸せはない。戦争は幸せのスイッチを 破壊してしまう。幸せを感じる人の心を破壊してしまうのだ。

 一九四五年八月以来、日本には平和な日々が続いている。東日本大震災や阪神淡路 大震災、幾多の台風・豪雨災害もあったし、鉄道や航空機事故も多く、これらの災害 や事故で多くの人命を失ったが、他国と戦火を交じえることだけはなかった。

 他方世界はどうかといえば、大戦後間もなくの朝鮮戦争をはじめ、中・台戦争、ハ ンガリー、チェコスロバキアの動乱、四次にわたる中東戦争、中印紛争、ベトナム戦 争、フォークランド紛争、印パ紛争、中越紛争、イラン・イラク戦争、湾岸戦争、ボ スニア・ヘルツェゴビナ紛争、アメリカと同盟国によるアフガン・イラク進攻、レバ ノンやリビアの内戦、エチオピア、ソマリア、ナイジェリアほかのアフリカ諸国の内 戦、あるいは現在進行中のシリア内戦、ウクライナ紛争まで、休むことなく戦いは続 けられ、兵士はもちろん、子どもをはじめ、戦火によって何十万人という、何と多く の罪もない人々が犠牲になったことか。この間、戦争に加わった国々は、アメリカ・ ロシア(ソ連)はじめ、イギリス、フランスをはじめとするEU諸国、イスラエル、イ ラン、イラク、クエートはじめ中東諸国、エチオピア、ソマリア、ナイジェリアほか のアフリカ諸国、アフガニスタン、インド、パキスタン、中国、台湾、韓国・北朝鮮 、ベトナム、カンボジア、ラオス、オーストラリア、ニュージーランド、アルゼンチ ンをはじめとする中南米諸国と、数えれば百か国をはるかに超えるだろう。これらの 国々は、いずれも戦争の被害を被り、おびただしい犠牲者を出している。

 こうした一九四五年以降の歴史をみると、日本がこの六九年間、湾岸戦争、アフガ ン・イラク戦争の際に米軍ほか連合軍の後方支援の形で参戦する以外直接交戦するこ となく、犠牲者も出さずにこれたことは、奇跡と言っても言いすぎではないだろう。

 これは、ひとえに憲法第九条の戦争放棄にかかる定めがあってのことだ。歴代日本 政府は、そのほとんどが保守政権でありながらも、太平洋戦争における三百万とも四 百万ともいわれる多大な犠牲を繰り返すまじとして、専守防衛に徹し、交戦権に強い 歯止めを掛けてきた。その判断の中核をなしているのが、憲法解釈における「集団的 自衛権の行使は現行憲法下ではできない」という解釈だ。ここで理解しておかなけれ ばならないのは、この「集団的自衛権」という言葉、そこに込められているのは、集 団交戦権」という意味だ。つまり、他国と一緒に不特定の「敵」と戦争をする権利と いうことだ。

 しかし今、東アジアの緊張が高まっていることを好機と捉えて、武力を増強し、他 国と連合しての交戦権を確立しようとする動きが急速に高まっている。私たちは、現 在の平和を、一人一人の幸せを守るためにも、この動きに明確に反対し、この危険な 企てを阻止しなければなるまい。
(2014.6.20)


 最後に、自民党総務会長の野田聖子衆議院議員が岩波書店の『世界』誌のインタビ ューに応じた興味深い記事が載っていたので、以下に一部リライトしてご紹介したい 。このインタビューには、苦労を重ねてようやく我が子を胸に抱いた人の、命をいつ くしむ思いがにじみ出ているように思う。以下は、「自民党は改憲を公約としている 」と前置きした上での発言。
▽「人口減少の現実を踏まえ、持続可能な安全保障を考えよう」
〜安全保障は相手となる世界中の同盟国があって、世界情勢にもかかわることですか ら、一旦大きく変えてしまうとなかなか変更できない。〜武力行使ができるとなれば 、自衛隊は軍になる。軍隊は殺すことも殺されることもある。自衛隊はおおむね若い 男性で構成されている。今の日本は、どれだけそこに若者を行かせられるのでしょう 。
 政権が変わることもあります。そのとき、解釈がガラリと変わってしまうことも十 分あり得ます。そういう重要なことを憲法の解釈だけで変えてしまうことは、政策の 安定性がなくなるのではないかと心配しています。〜そして国の借金がGDPの6% もある今の日本で、予算をどれだけ国防費に回せるのでしょうか。素朴だけれど、リ アリティのある議論が必要だと思います。


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